東地区1班 (株)タープ不動産情報 三浦孝志
近年、不動産取引に大きく影響される、デジタル社会の形成を図るための関係法律「デジタル社会形成整備法」が 2021年 5月 12日に成立しました。
デジタル社会形成整備法は宅地建物取引業者が守るべきルールを定めた、宅地建物取引業法の改正についても定めています。その内容は、現在は書面での交付が義務づけられている、「重要事項説明書と契約書を電磁的方法で交付することを認める」というものです。法律が施行されれば、重要事項説明書の説明から書面交付、契約の締結・契約書の交付まで、すべてオンラインで手続きが完結できるようになり、この電子契約の導入で不動産取引が大きく変わることになります。
今回はその不動産取引を電子化させる、デジタル社会形成整備法について説明します。
具体的にどのような法改正なのか?
電子契約の導入を促すデジタル社会形成整備法第17条では、宅地建物取引業法の一部を改正すると定めています。その内容は、不動産取引のルールについて、次の2つのことを変更するものです。
•重要事項説明書の交付方法
•契約書面の交付方法
これら2点が変更されると、不動産の売買・賃貸契約は、契約の締結から重要事項説明・書面の交付や受け取り、そして契約書の作成まで、すべての手続きをオンラインで行うことが可能になります。
【図1】に、変更点について具体的にまとめました。
いつから実行されるのか?
デジタル改革関連法の1つである「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」が 2021年5月12日に成立し、9月1日から施行されました。ただし、宅地建物取引業法に係る改正については公布(2021年5月19日)から1年以内の施行とされているため、2022年からの施行になる予定です。今後は、宅地建物取引業法などの法律を対象に「押印撤廃・書面の電子化」のための法改正が行われます。(重要事項説明を伴わない合意書や駐車場契約などは今でも電子契約は可能です。)
■電子契約のメリット
1.業務効率化が出来る
電子契約の導入メリットは締結業務の簡素化と締結スピードが向上することによる業務効率化です。書面交付が必要な取引では例えば契約が必要になった際、執務室へ戻り、必要書類を用意した後に印刷・製本をかけ、返信用封筒とともに封書して投函を行うという作業が発生していました。そして相手先からの返信を待つのにまた数日必要になります。
電子契約であればやり取りをすべてインターネット上で行うことが出来ます。そのため面倒な製本や封書作業は省けるほか、契約書の郵送が必要なくなるためタイムリーな締結が可能になります。
2.印紙税がかからない
電子契約は印紙税法上の課税対象に当たらないため、収入印紙をつける必要がありません。そのため売買契約などで数万円かかっていた印紙代が不要になるため、年間複数の契約を行っている企業は大幅なコスト削減が可能になります。
3.コンプライアンスが強化される
電子契約はインターネット上で締結を行うため、締結
【特集】不動産業界における電子契約
作業がどの段階にあるのか、どこで契約が止まっているのかなどの状況が一目で分かります。また締結が遅れている契約もサービスによってはリマインド通知が行われるため、締結漏れに不安はありません。
また締結後の契約書もクラウドで管理されるため、キャビネットなどの保管スペースが必要なくなり、インターネットに接続できるデバイスがあれば内容の確認も行えます。更新漏れの契約の発生を防ぐとともにサーバーで厳重に保管されるため紛失リスクも低減されます。
4.郵送、交通費の削減
契約を締結するとき、売主と買主が直接会って契約する場合などには交通費が発生しますし、郵送で行う場合には郵送費が発生しますし日数もかかります。しかし、電子契約の場合にはオンライン上でできるため交通費も郵送費も発生しません。特に建物賃貸借契約のように短期間で内見、申込、審査、契約締結、入居といったプロセスを進めるようなケースでは大変便利になるでしょう。
5.管理がしやすくなる
紙での契約の場合、保管場所の確保が必要になり、紛失するリスクもあります。それに対して、電子契約の場合にはデータで情報を管理するので、保管場所に困ることがありません。
■電子契約のデメリット
1.高齢者など対応できない人がいる
高齢者の場合、パソコンなどの操作が苦手という人もいるため、全てを電子化することは難しいという問題があります。
2.サイバー攻撃などのリスクがある
電子契約ではオンライン上で情報をやり取りするため、サイバー攻撃により情報が流出したり重要データが破損したりする危険があります。そのため、しっかりセキュリティ対策は行いましょう。
3.インターネット環境やパソコンなどの機器が必要になる
電子契約を行う場合には、パソコンやスマートフォンなどのデバイスやインターネット環境の整備が必要です。
4.通信費やプロバイダ料金が発生する
電子契約を行う場合、郵送費や交通費はかかりませんが、電気代や通信費、プロバイダ料金などが発生します。また、事業者には電子契約システムの導入費用も発生します。
電子署名って原本証明できるの?
不動産取引には悪意はなくても事後トラブルが発生して裁判になんてことも可能性としてあります。その際に電子契約で署名された文章は従来の記名押印された紙での契約と同じように原本をどの様に証明するのか?
電子署名とは、印影や手書き署名に代わって電子ファイルの作成者の証明をしやすくするとともに、そのファイルが改変されないようにするための技術的措置をいいます。
書面を用いた契約では、押印した印影や手書きの署名を施すことによって、文書の内容が本人の意思であることを証明できるようにし、朱肉やインクによって本人以外がその文書を改変しにくい状態にします。これは、一般に印鑑が本人だけが保有しているものであることが推定されること、また手書きの署名であれば筆跡鑑定で本人が推定されることを前提とした仕組みです。
一方、電子ファイルを用いる電子契約では、ファイルそのものに印影や署名を施すことはできません。もちろん、デジタルな印影や署名を画像として上書きすることはできますが、デジタル画像はコピーが容易であるため、本人の意思によることを証明することは出来ず、意味がありません。そのため、別の手段によってその内容が本人の意思であることを証明できるようにする必要があります。その手段が公開鍵暗号方式と呼ばれる暗号技術です。また、電子署名法が平成13年(2001年)4月1日から施行され、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用する法的基盤が整備されました。
その電子署名法では、電子署名の認証を業として行う認証業務について、一定の基準を満たした企業が、国の認定を受けることができ、その認定を受けた業者が電子署名の本人性と非改ざん性を認証することで原本と同じ効果を持たすというものです。つまり、国の認証を受けた民間機関のシステムを活用して電子契約を行い。その認証機関が原本証明してくれるということです。
まとめ
電子契約は海外では日常で行われており、今後は不動産取引においてもこの電子契約が活発になっていくことでしょう。重要事項説明書や契約書への電子化は最後のハードルが残るものの、2022年 5月までには実現する見通しです。現実的には国から認証された民間企業のシステムを活用するIT企業などが、私たち不動産業者が使いやすいようなシステムを開発し、そのシステムを活用していくというのが現実的なようです。
数年後、全ての不動産取引が電子化になり、会ったこともない方同士の仲介をWEB上で取り交わすなんて日も近いかもしれません。